こんにちは、Shima Suki編集部です。
都会で暮らすことに漠然とした息苦しさを感じたことはありませんか?
著者もそんなモヤモヤを抱えていた一人。そんな著者が取材中に出会った東京と離島の“二拠点生活”を実践した女性の体験記をご紹介します。舞台は伊豆諸島・新島。
彼女が実際に家を借り、仕事を続けながら過ごした日々には、都市生活では得がたい気づきと出会いがありました。
はじまりは、都会の“疲れ”だった

東京都内でIT系の仕事をしている私は、30代後半に差し掛かった頃、いつからか「このままでいいのか?」という思いを抱くようになっていた。
朝から夜までパソコンとにらめっこ。クライアントの要望に応える日々。気づけば週末もスマホを手放せない。便利な生活ではあったが、呼吸が浅くなっていくような感覚があった。
そんなとき、ふとSNSで見かけたのが「二拠点生活」の文字だった。東京と地方の両方に住まいを持ち、行き来しながら暮らすというライフスタイル。それは、私が密かに憧れていた「都会の外で暮らす」願望を、現実味あるかたちで叶えてくれる方法のように思えた。
最初は軽い興味だった。けれど、気づけば「島に家を借りる方法」「離島 賃貸 空き家バンク」などと検索を重ねていた。
小さな出会いから、島の家を借りるまで
2022年の秋、私は初めて伊豆諸島の「新島」を訪れた。
東京・竹芝桟橋から高速船で約2時間半。透明度抜群のビーチと、火山島ならではの荒々しい自然が共存する場所だった。意外にもコンビニや診療所、小中学校もあり、離島とはいえ生活インフラはしっかりしていた。
そのとき泊まった民宿の女将さんが、「空き家、結構あるよ」と教えてくれたのがきっかけだった。紹介してもらったのは、海沿いにぽつんと建つ築35年の平屋。外観こそ古かったが、日当たりがよく、ウッドデッキからは海が一望できた。
「こんなところに住めたら…」と思わず口にした私に、女将さんは笑って「借りたらいいじゃない」と背中を押してくれた。
そこからトントン拍子で話は進んだ。所有者は島を離れて本土に移住していたが、「きちんと使ってくれるなら」と格安で貸してくれることになった。家賃は月3万円。東京では考えられない金額だった。
二拠点生活スタート。初めての「島の朝」

2023年の春、私はついに新島に家を借り、月のうち1週間を島で過ごす生活を始めた。
初めて島の自宅で迎えた朝は、まるで映画のワンシーンのようだった。窓を開けると潮風がふわりと入り、庭の椰子の葉が静かに揺れていた。鳥の鳴き声と波の音がBGMのように流れ、身体が芯から緩んでいくのを感じた。
朝は8時に起床。軽く島のパン屋で朝食を買い、海岸を散歩してからノートパソコンを開く。仕事の内容は東京と同じだが、不思議と集中力が増した。雑音がない。情報が少ない。だからこそ、目の前のことに向き合えるのだ。
昼休憩には、近所の漁師さんに誘われて港へ。釣った魚をその場で炙って食べるという体験もした。夕方には温泉に浸かり、星空を見ながらビールを飲む。東京で味わえない贅沢が、ここにはあった。
変わったのは、時間の使い方と“心の余白”
島での生活が2ヶ月、3ヶ月と続くうちに、自分の時間の使い方が大きく変わっていることに気づいた。
東京にいるときは、朝から夜まで予定で埋めていた。SNS、メール、ミーティング、タスク。常に「次にやること」が頭の中にあった。
でも、島ではそうはいかない。スーパーが夕方に閉まるから、買い物は早めに済ませる。バスは1日数本だから、移動は徒歩か自転車。自然と“空白の時間”が生まれる。
この“余白”が、実は自分の思考や感情を整えるのに欠かせなかったのだと、後から気づいた。
ある夜、海岸で焚き火をしていたとき、不意に泣いてしまったことがあった。理由はわからない。ただ、長年胸に溜まっていたものが、ふっと緩んだのだと思う。
地元との関係が、人生観を変えてくれた
二拠点生活で大きかったのは、「地元の人との関わり」だった。
東京での生活では、隣に誰が住んでいるのかすら知らないことも多い。でも島では、誰かとすれ違えば挨拶するのが当たり前。困っていれば、誰かが必ず手を差し伸べてくれる。
一度、急な体調不良で寝込んだとき、近所のおばあちゃんが梅干しとお粥を持ってきてくれたことがあった。その優しさが涙が出るほど嬉しかった。
島の人たちは、よそ者である私を受け入れてくれた。それは私が“観光客”ではなく、“住む人”になったからだと思う。地域に溶け込むには時間が必要だが、それは“時間をかける価値のあるプロセス”だった。
東京と島の間で、私は“自分の軸”を見つけた
2024年現在、私は月に1〜2週間を島で過ごし、残りを東京で働いている。どちらが本拠地というわけでもなく、「どちらも自分の場所」だと思えるようになった。
島での暮らしは、ただの気分転換ではない。仕事の仕方、人との関わり、自分の価値観——すべてにじわじわと影響を与えてくれた。結果として、私は仕事のパフォーマンスも上がり、人間関係の質も変わったように思う。
そして何より、心に余白ができたことで、「人生って悪くないな」と思える瞬間が増えた。
二拠点生活、実現するためのヒント
これから島で二拠点生活を始めたい人に向けて、私が体験から得たヒントをいくつか共有したい。
✅ 空き家バンクを活用する
各自治体が運営している空き家バンクは、有力な情報源。問い合わせの際は「実際に住みたい」という熱意を見せることが大事。
✅ まずはお試し移住から
いきなり契約するのが不安な場合は、1〜2週間の“お試し滞在”から始めるのがおすすめ。住んでみないと見えないことがたくさんある。
✅ コミュニケーションを大切に
島では“人との関係”が暮らしの鍵。挨拶、地域の行事への参加、日々のちょっとした会話を大切に。
✅ ネット環境は事前に要確認
特にリモートワーク中心の人は、回線速度や電波状況を必ず現地で確認しておこう。
“帰る場所がふたつある”という安心感
「島に家を借りてみた」ことは、私の人生にとって小さな挑戦だった。でも、その一歩が、自分の軸を取り戻す大きなきっかけになったと話す彼女の目は輝いていた。
ふたつの拠点を持つこと。それは“逃げる場所”ではなく、“戻れる場所”を持つということ。
——人生にちょっとだけ風通しが欲しい人へ。
一度、島に家を借りてみるのはどうだろうか?